閉鎖病棟へ入院【10】発狂への過程

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職場でのストレスで「突発性難聴」を発症して、私は入院しました。

< 入院 1日目のこと >
ステロイドの点滴を毎日受けて安静と療養のための入院でしたが
入院初日に電話で上司から突然入院したことを酷く叱責されてしまい
眠れない日が始まりました。

自分の心の整理のために書き始めたノートは2冊目になり
自分の人生を振り返っていった時に
“自分はとても恵まれている” と強く感じるようになりました。

けれど、人生の中でどうしても一つだけ納得していない事がありました。
それは、私の30歳の誕生日にある人から「絶交」を突き付けられたことです。
「絶交」などしなくても、返事をしなければ簡単にフェードアウト
できる関係だったのに、あえて誕生日期限で言われたことが
痛みとなって私を何年も苛みました。

私は共通の友人からその人の現在の連絡先を教えてもらい
18年ぶりに連絡をとって電話が欲しいと伝えました。
かかってきた電話のP氏の言葉は、横柄でいちいちめんどくさくて
相変わららずなことに安心して懐かしく思いました。
そして私は、ずっと知りたいと思っていた質問をしました。

「私とP氏との関係って、何だったと思う?」
「セフレ!」即答するP氏。

「・・・手をつないだことすら無いし! 」と私。 (# ゚Д゚)q
「うーん、SMな関係」「・・・はぁっ?」 (゚Д゚)
「いや、ソウルメイトとか」
「あっ、それいいね。でも、SMじゃ誤解を招くのでやめとこうよ」

私は、そんな言葉が出てくるとは夢にも思いませんでした。
けれど、しっくりくる言葉でした。友人でも恋人でも家族でも無い。
聞かずにいた「絶交」の理由も、もう聞く必要はなくなりました。

共通の友人いわく「P氏は言ってることの半分ウソだから」なので
ウソ率50%ですが、ウソでも良いです。
私が「ソウルメイト」だったのだと、思っていれば良いことなので。

個室とはいえ入院中だったので、3時間で電話を切りました。
昔は何時間もよく電話をして、電話代の請求額に驚いたことも
あったのを思い出しました。

ちなみに、その後P氏とは連絡することも無く8年が経過して
会ったのは、私の父の通夜でした。
P氏のお父さんが、自分の甥と私との見合い話を
持って来たことがある位に、父同士は親しかったのです。

田舎なので親は親だけの関係で、家族ぐるみの付き合いなど
全くありませんでしたが…。

P氏との電話で、心の奥にあった自己否定の鬱屈が消えて
多幸感と万能感が私を支配し「何があっても大丈夫。私は無敵」
という躁状態は加速していきました。

その数日前から聞こえて始めていた幻聴(ラジオやベルの音)を含めて
『ステロイド精神病』の症状が出始めていたのです。


< 入院から8日目のこと >
病院の窓の外は、台風一過の美しい空が広がっていました。
私は変わらず、毎日数時間しか眠らずに
世界に対する自分の考えをノートに綴っていました。

いろいろな考えが浮かんで楽しくてワクワクして病室をぐるぐると
歩いていた時、突然目の前の世界がグラッっと揺れました。
体が倒れそうになって窓枠にすがり付きました。

私には、世界の様相が一気に変わったように感じました。
私はその時、気が付いたのです。

人間は実は
2種類の種族「人類
(=猿人)」と「斑類(まだらるい)
に分かれているという事実に

「斑類」は魅力的で社会の重要なポジションを占めて人類を支配している。
大好きなBL漫画の『SEX PISTOLS』 に描かれていた世界設定は
本当のことだったのだと。

私の上司・父・P氏は「斑類」で、私は「人類」。
だから私は、こんなにもの彼らの言葉に囚われていたのだと…。

同時に、世界を理解し原因がわかったことは、ある種の心の解放でした。

・・・” 妄想 ” の発現でした

猿人の私には今まで見えて無かったけれど、斑類はいるんだ。
この事実に、世界のどれだけの人が気づいているのだろう。
作者の寿さんは、きっと知っていたんだと思いました。

怖くなって、どうしよう、どうしようと、慌てふためきました。
この事実を世界に知らせるべきなのか、黙っておくべきか。
斑類は世界を陰で動かしていると気が付いた私に
身の危険はないだろうかとまで考えました。

気づかぬうちに支配されコントロールされる側だという恐怖感は
『MONSTER』 の漫画を読んだ時やアニメのエンディングを見た
時の感覚を思い起こすものでした。


10日で退院したその日の真夜中
寝ていても眠れずにいたので、寝室から1階のリビングに行きました。
そして入院中と同じく部屋の中をぐるぐると歩き回りながら
退院後のこれからの生活について考えていました。

私の躁状態は、自分の万能感を肥大させていました。
「今の私は、世界のどんな疑問も分かるのだ」と。

高河ゆんさんの漫画『アーシアン』 の冒頭のモノローグ
「世界の謎は全て解き明かされ、科学者は魔法使いと呼ばれていた」
に物凄くドキドキした私は、その時代に追いついたのだと。

私はもう、”どのシャンプーが私の髪に一番合っているか” もわかる。
これからは、そんな些末な事に悩まなくても良いのだ。
人の悩みの解決方法もわかるので
これからは占い師のような仕事をすればいい。

あぁ、なんて楽しい未来なんだろう。
私は特別な力を持って、人の役に立つのだ。

私は、ぐるぐると部屋を歩いていたのですが
あまりに楽しくてスキップをし始めました。
何十年かぶりのスキップはぎこちなくて、自分で笑ってしまいました。

転びそうになって机に手をついた時
また目の前の世界ががグラッと揺れました。

私はその一瞬の中で 『人類の歴史の全て』
を自分の記憶の走馬灯のように感じました。
歴史の教科書の挿絵の数々が、自分が実際に見てきたドラマのように
立ち上がっては消えてゆきました。

これは漫画『鋼の錬金術師』 で描かれていた
「真理の扉」の向こう側なんだと思いました。

すると、私の頭の中で一つの言葉がはっきりと聞こえました。

『 世界は 完璧で美しい 』


・・・そして、私は『発狂』したのです。