閉鎖病棟へ入院【12】妄想が加速する

7.閉鎖病棟へ入院

朝になって
『私は聖母のような特別な存在になったのかも』
という自分の思い付きが楽しくして
これから何が起こるのかウキウキしていました。

夜中の出来事は、必要な洗礼のようなものだったのではないかと。

もし私が聖母なら
その子供である息子は、特別な存在といいうことです。
私が何をしなければいけないかは、息子が教えてくれるのだろうと思いました。
そして、息子の言葉の一つ一つに大事な意味があるはずだと思って
子供について回っていました。

「今日は、パパがおもちゃを買ってきてくれるよ。
大きなスーパーで、トーマスのおもちゃ買ってきてくれるって」
幼い息子の適当な作り話はいつものことでしたが
” 今日は息子の新しい誕生日だからプレゼントが必要なのだ ”
と思って、夫に頼むことにしました。

「あのね、シシコはクマおじさんを生んだんだよ。
 それからね、クマおじさんがシシコを生んだんだよ」
と息子のシシコが唐突に言いました。
クマおじさんというのは、夫の若い頃からの飲み友達で
息子はクマおじさんが大好きでした。
そうか”シシコとクマおじさんは、ソウルメイトだったんだ”と思いました。

息子に付いて寝室へ行くと
「ママーっ。シシコの真似して」と言われて
マットの上を一緒にぴょんぴょん飛び始めました。
「それからね、寝てお腹に手を当てて、びゅーっと出て」と言われました。
” 何だろう?そうか、これは体から意識を分離させる訓練だ。
 あれだっ! 『ガンダム』のニュータイプやら『イデオン』の発動のイメージだ ”
と思いました。

シシコの言動に翻弄されているうちに、少し怖くなってきました。
何で息子は、こんなことをするの? なぜ私の知らない世界を知っているの?
息子のクリクリとした大きな目が私を見てる。
『三つ目がとおる』 の主人公の顔が思い浮かんで、息子の顔にだぶりました。

『・・・この子は、本当に私が生んだ子なの?』
普通の人間ではないとか化け物かもとか、物語で親が葛藤する展開です。
落ち着け、落ち着け、間違いなく私が生んだ子だと、自分に言い聞かせました。

夫が「これから病院へ行くから」と言った時
私は自分が精神科に行くことは当然の流れだと理解していました。
自分の昨夜の言動が普通ではないことは、十分に自覚がありました。

それから、夫は「病院に、シシコは連れて行かない」と言ったのですが
自分に世界のヒントをくれる息子と離れたくないと思って、息子を抱きしめました。
すると、息子は私の胸で服の上からオッパイを飲むマネをし始めたので
「絶対シシコと一緒に行く!だってシシコは生まれたばっかだもん!
おっぱい飲みたいって言ってるもん!ほらねっ!」

私は精神病んで病院へ行くのだから、おかしな事を言うのは逆に普通。
意思を通すためだったら、もう何を言っても構わないと思っていました。

息子は、このごろ急にオッパイを飲むマネをするようになっていました。
思い付きで言ったけれど、”本当に生まれたばっかりなのかも知れない”
と考えていました。

・・・妄想は次から次へと浮かんで、止まりませんでした。