朝目が覚めると頭がボーッとしてして
自分がどこにいるのか分かりませんでした。
見上げた白い天井は、とてもよく知っているものだけれど
ここはどこ?
ふと隣を見ると、眠っている母の顔がありました。
それを見て、一気に記憶が戻りました。
ここは、いつも寝ている我が家の寝室だということ。
昨日、夫が呼んで母が来たこと。
おそらく心配して隣に寝てくれたのだろうということ。
そして、私の頭の中で起こった様々なこと。
ずっと笑って、ずっと泣いていたこと。
現実感が無くて
何か長い夢でも見ていたような気分でした。
けれど、また天井を見たら「ぷっ」と音がしました。
”オナラだ ” そう思ったとたんに
これは現実だ!現実に起こったことなんだ!
夢オチなんかじゃない!とはっきり気が付きました。
私は、自分に起こったことが、信じられないという気持ちと
なぜ私がという気持ちもありました。
自分の心の奥にあった苦しみがこんなに大きくて
それがとても切なくて・・・
こんな風に夢を見た自分が
とても痛々しく哀れでたまらなくなりました。
そして、また私は泣き叫び始めました。
「あぁーっ!う、うっ、うっ。ああああーっ!
ひどっ!うっうっ。どうしてっ!
あっ、ああああああーっ!あぁーっ!う、うっ、うっ。」
どうして私なの?どうしてこんな夢を見させるの?
どうして夢オチじゃなくて、これが現実なの?
こんな体験をして、どんな意味があるの?
それでも何かの意味を見出さないといけないの?
感謝しなくてはいけないの?
ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます!
バカみたいだ。
私はおかしいんだ。
私は滑稽だ。
母や夫が、また心配するのは分っていたけれど
私は声をあげて泣き続けました。
そして、落ち着いたところで、何とか説明をしようとしました。
「あの・・・心配かけて、ごめんなさい。もう大丈夫だから。
なんて言うか、いろんな事を考え始めたら
私の頭の中がすごいグルグル高速回転し続けて
オーバーヒートしちゃった感じ。
今はもう回転速度は落ちついたから大丈夫」と。
感情は落ち着いたものの、私は自分が『何でもよく分かる存在』
になったという思いは残っていました。
今まで分らなかったいろいろなことが、もう私には分る
自分の直観を信じれば大丈夫で、特別な人間になったのだと。
昨日の『聖母のような存在なのかも』という気持ちもまだ残っていて
そのために得た力だと思っていました。
自分は『奇跡』のようなものを体験し、私が感じたものは
『世界の変化の予兆なのだ』と。
もう心配しなくてもいい。
この私の体験は、世界の変化の先ぶれなのだと。
午後は、昨日の病院へ診断書と紹介状を受け取りに行きました。
私は大人しく助手席に座っていたものの
いろいろ考えると思い浮かんだ事がどんどん結びついて
次々と新しい発見や気付きがあることが本当に楽しくて
「あっ、そうか」「わかった」という言葉が、何度も口を付いていました。
(・・・これは、躁状態の典型的な症状の一つです)
夫が病院へ書類を取りに行っている間、私と母の二人になりました。
待つ車の中で、ちょうど母の好きな さだまさしさんの曲『Birthday』が流れました。
生まれてきた事には大事な意味があり、母にも世界にも感謝する歌。
これは今、母にちゃんと話さなくちゃいけないという示唆だと思いました。
「 あのね、お母さん。私はね、自分の中に『ストレス』・・・というか
『願い』のようなものがたくさん溜まって
今度のことは、それが一気に吐き出されて爆発したような感じだったの。
それは『吐き出した』っていうよりも
私は『生んだ』って感じ。
私の中に、世の中のいろいろな『願い』が溜まって溜まって
私は『世界の希望を生んだ』って思ってる。
これで、きっと世界が変わるって気がする。
それでね、今まで世の中に、とても酷いことがたくさんあったけど
世界はこれから変わるんだって・・・」
母は車外に気を取られて、私の話しを聞いていませんでした。
「何?外に何かあるの?」と私が聞くと
「あの人って、袴田さんだよね。ほら、死刑囚だったけど冤罪だった・・・」
私も外を見ると
確かにテレビで見た袴田さんにそのお姉さんが寄り添って
私達の車の横を通り過ぎました。
・・・二人は、人通りのない坂道をゆっくりと登っていきました。
そうか、そうだよね。袴田さんは最も苦しんできた人のひとり。
これは、偶然ではなくて暗示なのだと思いました。
世界は変わる。これから絶対に変わるから。
それは、その時の私にとって、願いではなく確信でした。
「それでね、お母さん。とても酷いことがたくさんあったけど
世界は変わるって、私は分かってる。
お母さんがずっと心配している中国のことも
水をめぐる戦争も、きっと大丈夫だって…」
私は、車中の曲をさださんの『いのちの理由』に変えて
次の曲は『主人公』にしました。
我ながらよい選曲だと思いながら
母に少しでも私の言葉を信じて欲しいと、そう願っていました。
妄想だけれど
『 私は世界が変わる予兆である子供を産んだ 』
子供の名前は
『祈り』・・・。